東京高等裁判所 平成元年(ラ)545号 決定 1989年11月15日
抗告人 株式会社 コスモジャパン
右代表者代表取締役 加賀谷亮悦
右代理人弁護士 宮下文夫
主文
一 原決定を取り消す。
二 抗告人が金四四〇万円に相当する保証を平成元年一一月二九日までに提供することを条件として原決定添付物件目録記載の不動産についての増価競売手続を開始し、右不動産を差し押さえる。
理由
一 本件抗告の趣旨及び理由は、別紙執行抗告状及び執行抗告理由追完書のとおりである。
二 当裁判所は、本件増価競売の申立てを認容するべきものと判断する。その理由は次のとおりである。
1 不動産の共有持分権者は、本来、当該不動産について各一個の所有権を有し、各所有権がそれぞれの持分割合において制限されているに過ぎないのであるから、共有持分権者の地位は基本的に単独所有権者のそれと異なるところはないものというべきである。したがって、滌除の制度を利用し得る資格においても、両者は区別されるべきではないというべきである。そこで、不動産の共有持分権者は、自己の持分に対応する金額を提供し、持分の範囲において抵当権の実行に対抗して抵当権を滌除し、不動産の共有持分権者としての地位を保全することができるものと解すべきである。
2 また、共有持分権者による滌除権の行使について、共有者全員が共同で行うことを必要としたり、単独で行使する場合には、保存行為として他の共有者の持分も合わせて行うことが必要であると解することも相当とはいえない。いずれも明文の規定がないうえ、前者の場合、持分に応じた共有物に対する滌除権を不可分的な性質を有する権利とみるべき特段の根拠はなく、後者の場合、当該不動産の他の共有持分権者が、右滌除権の行使に対する増価競売によりその意に反して持分を失う可能性を生じさせることにもなるからである。
3 ちなみに、抵当権設定当時一筆であった土地が分筆された場合、抵当権者は、右分筆後の土地について優先弁済権を有する反面、右分筆後の土地を譲り受けた第三者は、右譲り受けた土地について滌除権を行使することができると解すべきであるが、この場合と本件のような場合とを区別する理由は見いだし難い。
4 したがって、民法三七八条ないし三八三条が、滌除権の行使権者及び滌除の手続において、共有持分権者を除外したり又は単独所有権者と区別したりしていないにもかかわらず、共有持分権者が単独でする持分についての滌除権の行使を、一般的に違法であるとする根拠は見いだし難い。
5 なお、抵当不動産の共有持分権者が、自己の持分に対応する抵当権の範囲についてのみ滌除権を行使した場合、抵当権者は、当該不動産について把握した担保価値を持分権の譲渡によって細分化され、また、持分権に基づく滌除の通知毎に増価競売をもって滌除に対応しなければならないなど、不利益を被る可能性があることは否定できないこと、及び滌除の制度自体が抵当権者を不当に害するものであるとし、関係法規の解釈に当たっては、抵当権の機能を不当に弱めることのないよう配慮すべきであるという一般論が存在することも、前示のような共有の性質及び民法の規定に照らし、右結論を左右するものではないというべきである。
よって、以上の結論と異なる原決定を取り消し、民訴法四一四条、三八六条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 武藤春光 裁判官 吉原耕平 池田亮一)
<以下省略>